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週刊DBオンライン 谷川耕一

「2年で生成AIを日常業務に浸透させる」 サッポログループが実践する“社員に使ってもらう”ための戦略

DXは“意識や文化の変革”、AIとの協働だけでなく人の意識を変えていきたい


 サッポロビール、ポッカサッポロフード&ビバレッジなどを傘下に持つサッポログループでは、2024年2月1日からExa Enterprise AIの「exaBase 生成AI」の試験導入を開始した。これによりグループ各社の企画、管理系部門を中心とした約700名が対象に生成AIを活用できるようにし、日常的に多くの工数がかかっている業務の品質と生産性の向上を目指す。ChatGPTなどを全社導入する動きは他にもあるが、思うように利用率が上がらず効果が発揮されていないとの話も聞こえる。サッポログループではどのような準備をして、グループ規模での生成AIの活用を進めようとしているのだろうか。

サッポログループの“AIとの協働”を目指すDX戦略

 サッポログループが、生成AI活用の前提とも言えるDXの取り組みを始めたのは2018年頃。まずコンサルティング会社の支援を受けながら業務の現状を分析すると、アナログのビジネスプロセスや属人化の業務が多く存在していることが明らかになった。「このままDXを進めても失敗に終わってしまうのが目に見えていました。そのため、まずはBPR(Business Process Re-engineering)から実施しました」と話すのは、サッポロホールディングス DX・IT統括本部 DX企画部 推進グループリーダー 安西政晴氏だ。3年半ほどの時間をかけてBPRを進め、主要な事業会社を対象に36万時間、約200人工分の業務効率化を実現した。2021年度までにBPRはほぼ完了し、改めて2022年から全社DX戦略を打ち出して取り組むこととなる。

サッポロホールディングス DX・IT統括本部 DX企画部 推進グループリーダー 安西政晴氏

 同グループの新たなDX戦略では「お客様接点を拡大」「既存・新規ビジネスを拡大」「働き方の変革」という3つのグループ方針を掲げている。これらの方針に沿ってDXを進めることで、サッポログループに関わるあらゆるステークホルダーと共に成長し続け、「お客様と企業の価値最大化」と「全社員DX人財化」を進めている。DXを進める最終的なゴールはどこにあるのか。その1つが「最後はAIとの協働ができる状態だと考えています。あらゆる業務の中にAIを取り入れて進める。2026年にはそのような状態に持っていきたいです」と安西氏。その際の有効なツールの1つが生成AIだという。

 同グループがDX戦略を掲げた段階では、生成AIはまだ世の中に広く知られていなかった。一方で、既に機械学習技術を用いて需要予測をするようなAI活用は実用化されていた。同グループは飲料を扱うメーカーとして、特にサプライチェーンの最適化ではいち早く機械学習技術を適用してきた。2023年から生成AIが一気に注目を集めたため、サッポログループでもこれをAI活用における重要な要素として取り入れたのだ。

サッポロホールディングス提供資料より抜粋
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 ビールメーカーを含む製品の流通では、メーカーは卸売業者、小売業者を通じて消費者へ製品を販売するため、直接的な顧客との接点は基本的にない。このような関係性の中で、デジタルやAI技術を活用し、DX戦略の1つである顧客接点の拡大をどう進めるのか。また、飲料という重さのある商品を提供する旧来のビジネススタイルでは、ヒット商品が出れば一気にビジネスが伸びるものの、安定的にビジネスを拡大するためにはデジタル技術を活用する必要があると考えられる。そして3つ目のDXのアプローチとしては、デジタル技術を用いた働き方の変革がある。

生成AIで下層70%の業務効率化を目指す

 DXの手法の1つである生成AIは、まず既存業務の徹底した効率化のために活用する。BPRで効率化したのは業務の上層部分における30~40%の部分だ。「生成AIによって業務の“ボトム”を上げます。下層にある70%程度の業務を対象に効率化を目指しています」と安西氏は説明した。これが実現できれば、次のステップでは生成AIをクリエイティブな業務に活用することも考えているという。そして、これらを進めるための人材の育成や、AI活用のための環境整備も必要となる。

 そのために、サッポログループでは2年間のロードマップを描いている。2024年を「フェーズ1」として、特定業務の中で生成AIを活用するためのプロンプトを開発し、業務範囲の拡大を目指す。さらに業務ドメイン情報の活用も行う。これらの取り組みによって、定型業務の徹底した効率化と業務アウトプットの質の向上を目指すのだ。

 フェーズ1を実施することで、生成AIの効果がコストに見合うことを明らかにする狙いだ。生成AIの導入は、それなりに大きなコストがかかる取り組みである。それを全社展開しても、必ずしもすべての社員が使うとは限らない。そのような状況でもコストに見合う効果を発揮できることを確認し、そのための進め方を明らかにして、次のステップに進みやすくする狙いもあるという。

 2025年からの「フェーズ2」では、創造的な業務への適用を実施する予定だ。既存のデータレイクとの連携も視野に入れ、より高度な検索、生成を可能にする。そして、続く「フェーズ3」では静的タスクの自動化、「フェーズ4」では動的タスクの自動化も視野に入れている。このような段階を踏むことで、生成AIが日常業務に浸透している状態を作り上げていくのだ。

サッポロホールディングス提供資料より抜粋
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“全社展開”を成功させるための周到な準備

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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